大学予備課程の世界的な潮流 -IBDPへの変遷-

国際教育

イギリスと過去にイギリスの植民地だった多くの国はその教育制度を今も継続しており、大学は3年制です。5年間の中高一貫のセカンダリを経て1.5-2年の大学予備課程に入りますが、ここ数年でIBDPがググっと増えました。

はじめに

IBDP(国際バカロレア ディプロマ プログラム)は1968年に紹介されれた、国際的な人材教育を目指した大学予備課程です。それがなぜ50年以上もたってから俄然注目されているのか不思議に思って調べてみました。

大学予備課程

大学予備課程は先に述べたイギリス系の大学をはじめとして3年制の大学と、5年制のセカンダリー(中高課程)の間にある過程で、大学での教育のための準備教育ともいえるもので、だいたい日本の高校3年生と大学1年生(イギリスの場合は5歳から初等教育が始まるので日本での年齢は高2-3生)に当たります。

各国で独自の制度を持っていますが、国際的にもっとも有名なものがイギリスではじまり国際的に広がったGCE A-Level(1.5-2年)とIBDP(2年)があります。A-Levelはイギリスで1950年代に始まり、大学で専門的な研究ができるスペシャリストを育成するためのエリートへの教育として始まりましたが、その後世界に広がり、特に戦前植民地としていた国々では今も多くの国で採用されています。3-4教科を選択してその科目のみを専門的に集中して学び、その試験結果で受験できる大学が決まります。一方でIBDPは、海外で学ぶ子供たちが世界でリーダーになれるよう全人的な教育を、ということで当初はインターナショナルスクール向けに1968年に紹介されました。

A-Levelが理系、文系に完全に分かれて教科が限定されるのに対して、IBDPでは数学や語学を含む6分野の教科を勉強する必要があり、さらに課外活動も評価されます。他に進みたい方向や職業、科目が確定している、なども場合はFoundationという1年の専門分野課程を経て大学に進むことも多いですが、アカデミックに秀で、将来は研究者や指導的立場に立つ者としての道も考えられる人向けにA-Level とIBDPがより良い大学を目指すための大学予備課程として国際的に認知されています。

OECD30プロジェクト

OECD(経済協力開発機構)は、2015年にOECD30プロジェクトとして2030年に大人になる子供たちが、いかにこの不確実な世の中を生き抜く力をつける能力を学び取れる教育を供給するか、というフレームワークを紹介し、教科を学ぶだけではなく特に変革を起こす力と能力を得るために、

  • 新たな価値を創造する力
  • 対立やジレンマを克服する力
  • 責任ある行動をとる力

などを身につける学びが必要としています。IBプログラムは全人的な教育を掲げていることから、この方針に合致し、大学予備課程のみではなく、小学部、セカンダリー(中高等教育)部での教育にも取り入れられるようになり、世界的な広がりを見せ始めています。

また、Well-beingという言葉が随所で出てきて日本語では「よりよくあること」、などの訳がありましたが、インターナショナルスクールなどではすでに科目の一つとして取り入れられており、取り組みを見ていると「幸福・健康・自己実現」のような感じです(子供は、体育と保健と特活と道徳まぜたようなと表現していました)。

大学教育への移行に強いIBDP

IBプログラム自体は、柔軟に小学校やセカンダリースクールで一部を教育に取り入れていくなどもされていますが、大学予備課程であるIBDPは、Diploma Programme なので大学に入学するための資格としてこのDiplomaを取得する必要があります。6教科で45点満点、最低24点なければ合格とはならず、この合計点によって入学申請できる大学も決まってきます。GCE A-Levelも3教科のテストの結果で受け入れ可能な大学がほぼ決まりますが、少ない教科集中型での勉強をするため、時代に合っていないなどの批判も出るようになり、イギリス国内でも2006年からIBDPの導入が始まり、大学でも広く受け入れられるようになりました。

IBDPは2017年に行われたA-Levelとの比較で、大学入試においては圧倒的に優位であることが証明されました。イギリスで最大規模のACSインターナショナルスクールが行った調査では、イギリス国内81校、アメリカ20校の大学のアドミニストレーション・オフィサーに電話による調査を行い、IBDPが大学への移行教育としてふさわしく、適切であるとの回答を得ました。特に多文化への理解や地球規模の視点などについてはA-Levelの生徒には全く不足しているという結果となり、まさに全人的な教育を大学側は期待しているのに反し、教科集中型の学習では大学の求める入学準備支援は不十分とされたのです。大学は、教科を深く掘り下げて知見を得ることだけでなく、自立して研究に取り組む力や、ソーシャルスキル、タイムマネジメントなどの全般的な力を学生に求めており、この面でもIBDPからの学生が望ましいとの回答がありました。

IBプログラムの今後

IBDPは元々海外で学ぶインターナショナルスクールの生徒が世界のリーダーとして活躍できる人材になれるように、大学への移行支援教育として考案されたものなので、期待されるレベルはかなり高いです。現在はA-LevelからすでにIBDPにプログラムを変えている学校も多くあるものの、セカンダリー過程ではIGCSEなどの既存のプログラムのままの学校が多く、IBDPへの移行がうまくできず、苦労したうえに合格できないケースも多くなっていると聞いています。そのため、IBDPへの移行が円滑になるように、今後はセカンダリーのIBプログラムであるMYPや、小学部のためのPYPも世界で取り入れられていくものと思われます。ケンブリッジや関連テストボードもA-LevelやIGCSEを何度も見直し、改革をして健闘していますが、世界の潮流はIBになりつつあるように見えます。

おわりに

文中で紹介した調査結果のように、IBDPは大学への移行教育として最適であり、大学生になるための準備過程にふさわしいということが分かりました。OECDの指針も合わせて、IBDPへの移行や、そこに向けてのより若い段階でのIBプログラムの導入は今後も世界的に進んでいきそうです。

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